こんにちは。REASNOTの紅葉です。
今回は、メンバーシップの掲示板で募集した「読みたい記事」から、「アーティスト活動で成功する方法の最新版を書いてください」というリクエストに応えたいと思います。PN.ユッキーさん、ありがとうございます!
https://note.com/reasnot/n/nd5e51dae0c2c
うーん、しかし、難しいですね。『アーティスト活動で成功する方法』を書いたとき、できるだけ普遍的な内容にしようと気を付けていました。おかげさまで、今の自分が読んでも納得できる記事になっています。
ただ、執筆から2年半が経っています。
もっとも大きな変化は、コロナ禍が(いちおう)終息したことです。
コロナさんが落ち着いて、先の展望が少し見えるようになった現在、「アーティスト活動で成功する確率」は、かなり下がっていると感じます。
とりわけ「アーティスト活動だけで生計を立てる」という成功、以前の連載で言えばLv.3-2からLv.5を目指すのは厳しくなっていますね。
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以前の連載にならって、今回も音楽業界の話をメインにします。
ざっくり結論から言ってしまえば、現時点で22歳以下かつ、とんでもなく時代と運命に愛された人でなければ、専業になることは難しいでしょう。
それ以上、特に26歳を超えた人間に対して、明確な根拠もなく「あなたは成功できますよ」と甘い言葉をかけてくる人間や組織は、詐欺師の可能性が高いです。あなたの夢や「好き」を利用して、お金や時間を騙し取ろうとしている輩なので、気を付けてほしいです。
Lv3-1の「黒字でアーティスト活動をエンジョイする中堅になる」という成功を掴むことさえ、大変になってきた世の中だと思います。
今回の記事は、ネガティブが強めになってしまいそうですね。予めご了承ください。
前提
私は、夢や「好き」を追いかけている人が好きです。好きな人の願いが叶えばいいと思っています。ですが、その実現可能性については、疑ってしまうときもあります。なんといっても、現在の日本社会の仕組みは、夢や「好き」を追い続けることを応援してくれていません。。
そして現在、日本社会、いや世界の仕組みは崩れつつあります。
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まずは今の社会の話をしましょう。
私が「シンガーソングライターとしてがんばるぞ!」と思っていた10年以上前、師匠から「25歳がボーダーライン」と言われました。
音楽業界で身を立てたいなら、女だろうが男だろうが、25歳までに芸能事務所に見いだされたり、バズったり、一定金額以上を稼いだり、なんらかの成果を上げなければならないと。
理由は「時間も資源も有限だから」です。
音楽業界はビジネスの場です。無計画にそこらへんのライブハウスを回って「おっ。いいアーティスト発見。売り出そうぜ」なんて言う業界関係者はいません。かつてCDのミリオンヒットが多発していたころや、バブルのころは知りませんが、昨今の不景気ではありえません。
業界人は、日々「どんな音楽なら売れるかな?」「どんなアーティストなら稼げるかな?」と考え、マーケティングリサーチして、みんなで会議して、経営戦略を練っています。
その戦略に基づいて、売れそうな音楽やアーティストを探します。SNSを見たり、ライブハウスに行ったり、オーディションを開催したり。
いい感じの原石を見つけたら、プロデューサーやスタッフを集めます。楽曲を準備して、レッスンをさせます。衣装を作ります。ドラマやゲームのタイアップなどを決めて、売り出しプランを練ります。
さあ、デビューだ!がんばるぞ!となるまでに、半年~数年かかります。
デビューできても、すぐ結果が出ることは稀です。どんどんプロモーションをかけ、新曲を出し、ライブ予定を組み、グッズを作り、ファンサービスをしなくてはいけません。
そうして2~3年、先行投資してみて、売れればOK。売れなかったらクビ、という流れになります。
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もし、25歳の時にスカウトされたとして、デビューするまでに1年かかったら、26歳になっています。あれやこれやとがんばって、28歳ごろに売れたらラッキー、くらいの感覚です。
ね、ギリギリでしょう?
あなた自身、一介の聴衆として、考えてみてください。
「28歳、遅咲きの大型新人!」と聞いたら「ふーん。下積みが長かったんだね、よかったね」と思いませんか。
「30歳、遅咲きの大型新人!」と聞いたら「え?30歳で新人??」って思いませんか。なりますよね。
もしあなたが10代の学生だったら、「28歳の女性弾き語りシンガーソングライター?オバサンじゃん」と思いませんか。30歳なんて「超オバサンじゃん」ってなりますよね。
もともと好きだったアーティストが年を重ねていくならまだしも、初めて知ったときに「超オバサンだ」と思った相手に、憧れたり共感したりすることって、稀ですよね。
もしあなたが40代のサラリーマンだったら、「28歳の男性弾き語りシンガーソングライター?その歳まで何をやってたんだ」と思いませんか。30歳なんて、ますますドン引きしませんか。
現在の日本社会では、高校を卒業する18歳の時から、大学を卒業する22歳の時までに働き始めることが一般的です。28歳や30歳といえば、就職から約10年経った中堅です。すっかり仕事を覚えて成果を上げ、部下を持って指導することさえ期待される年齢です。
そうした一般的な感覚の中で、「28歳(30歳)の新人です!これから頑張ります!」なんて人が応援されやすいかというと、難しいです。20代なら、まだ「遅咲きなんだね」と思われやすいかもしれませんが。。
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純粋に、肉体の経年劣化も問題です。
顔にシミやシワが増えるのは、美容整形でなんとかできますが、臓器への対応には限界があります。
喉も、耳も、消耗品です。
稀に強靭な肉体を持っていて、厳しい自己管理とトレーニングで良好な状態を維持できる人間もいますが、少数です。野球選手なら誰でも大谷翔平のように投打で活躍できる、山本昌のように50歳まで現役でいられる、なんてことがありえないのと同じです。
有名な歌手でも、20代前半では楽に歌えていた楽曲が、だんだんとキーが合わなくなって、ライブの演目から外してしまう、キーを変えてしまうというのはよくあることです。
それでも若いころから活躍していれば「あの人も歳をとって高音がでなくなったわねぇ。でも今の方が歌に深みがあるわ、人生経験かしらねぇ」みたいに、ポジティブに受け取ってくれるファンはいます。
しかしデビュー時点でピークを過ぎていれば、あとはますます劣化していくだけですから、どうしようもありません。
音楽業界は、スポーツと同じく肉体労働の業界です。スポーツ選手は現役で活躍できる期間が短く、できるだけ早くキャリアをスタートすべきだと言われるのと同様に、音楽家も、若ければ若いほど有利です。
どうして22歳以下なの?
少なくとも約10年前には、「音楽業界で成功したいなら、25歳までに糸口をつかまないと厳しい」と言われていたことをお伝えしました。
2024年初春現在は、このボーダーラインがさらに下がっていると感じます。
具体的には22歳。大学卒業くらいです。
私がこう考える理由を、4つに分けて説明します。
①コロナの直接的損害
そもそもエンタメ業界は苦境が続いていました。
CDが売れなくなり、代わりに流行ったサブスクは、1曲再生あたり1円の収益になればいいほう。YouTubeでMVを無料公開すればファンは喜ぶけれど、広告収入に対して製作費がいくらかかるか考えると、費用対効果はよくない。
ライブをしてグッズを売って稼ぐしかない、となっていた所に、コロナさんです。
コロナ禍で、エンタメ全体、特に音楽業界は大きな打撃を受けました。具体的な数字は私も掴み切れませんが、数億円いや数兆円規模で損害が出たのではないかと思います。
さらに物価高や円安が重なり、庶民の財布のひもは固くなっています。コロナ明けと言える2023年の動きを見ても、2019年以前の消費状況に戻ったとは言い難い状態です。
まだまだ、この損害をリカバリすることに重点を置いて経営する企業が多いでしょう。
すなわち現時点で売れている、知名度があって立場が確立していて固定客をつかんでいて、売り上げの見込みが立つアーティストに仕事を回して、稼いでもらうしかありません。アーティストたち自身も懐が痛んでいるでしょうから、この方針に異論はないでしょう。
つまり業界には、お金をかけて新人を売り出す余裕なんてないのです。
②売り出すはずだった金の卵
各事務所やメディアは、この数年間に売り出すはずだったアーティストの卵を抱えているはずです。
「本当なら2020年夏にデビューさせるつもりだったけど、今、デビューさせても、まともにライブやイベントができない。もう少し様子を見よう」といった形で、手元に置いていたはずです。
まず、彼らを世に出さなければなりません。
2020年1月に、25歳でスカウトされた青年がいたとして、24年1月には29歳になってしまっています。もうぎりぎりアウトです。
それでも「君は運が悪かったね。僕らは新しい子を探すよ。さようなら」なんていう事務所はブラックです。人を駒にして稼ぐという業態なんですから、最低限の仁義は持っていてほしいところです。
現在、もしかするともっと前から、こうした順番待ちの人を売り出し始めているでしょう。
ただでさえ、新人に使えるお金が減っている時期です。順番待ちの列が解消されるまで、時間がかかることが予想されます。よって今、新たにスカウトしても、本格的に売り出すのは2~3年後になるでしょう。
今、25歳の人をスカウトしてしまうと、まともに売り出せるときには28歳になってしまっているわけです。コロナさんのような人智を超えた災害が原因ならまだしも、平時にそんな飼い殺しをするのは、やっぱりブラックです。
25歳フリーターなら、就職口はいくらでもあります。28歳フリーターだと、選べる範囲は狭くなります。その人の生涯年収が、下手すると二桁レベルで変わるかもしれません。おそろしい飼い殺しです。
まともな企業なら「できるだけ若い子を囲い込もう」という戦略をとるのは理解できます。
今、19歳の人をスカウトして、ゆっくりじっくり育てて、売り出し計画を練る。お金などの面で余裕ができて、売り出しの順番が回ってくるころには23歳。ちょうどいい年齢です。
③旧世代の高齢化と新世代の低年齢化
個人的な感覚ですが、ここ10年ほど、音楽業界は停滞していたと思います。
REASNOTとして取材している時、「リスペクトするアーティストは誰ですか?」と質問すると、24歳~34歳の人は答えはほぼ同じなんです。バンプ、ミスチル、チャットモンチー、aikoなど。
これが35歳以上になると、チャゲアスとか布袋寅泰とか松任谷由実とか、もう一世代上の名前がでてきます。23歳以下だと、miwaとか優里とかきのこ帝国とか、一世代若い名前になってきます。
まあ中島みゆき、ジャニーズ、洋楽系など、学校の教科書に載るような「名曲」になっていたり、とにかく接触回数が多かったり、教養として学ばれていたりするアーティストは、この限りじゃないんですが。
おそらく2005~2015年ごろは、テレビドラマやアニメの主題歌、CMソングを担当してきたアーティストの顔ぶれが同じだったのだと思います。
さて、その世代も、そろそろベテランの域に入っています。時代は、新たなスターを求める事でしょう。
ここらへんが時代の変わり目だと思うのです。
②の戦略もあいまって、今14、15歳くらいの人が、まだ誰も注目していないような手段を使いこなして、一気にスターへの階段を駆け上がるのではないでしょうか。
④業界の縮小傾向
最初に書いた通り、コロナさん襲来の前から、エンタメ業界は苦境が続いていました。しかし冷静になってみると、そもそも、エンタメ業界って稼げないのが普通なんですよね。
レコードやカセットテープ、CDなどの録音機器が開発され、大量生産で利益を出せるようになるまで、音楽家はライブで稼ぐしかありませんでした。残りの生活費は、そもそも実家が太いとか、良いパトロンを掴むとかでなんとかする。中世のクラシック音楽家って、大体そんな感じですよね。
長い間、「普通」の人は、生活の中で音楽を聴いたり演奏したりすることはあっても、生計を立てる手段としては選べませんでした。貴族の家に生まれるとか、貴族に見いだされるとかしない限り。
逆に、構造的貧困のなかに生まれたり、生まれつき障害があったりして、一芸で稼ぐしかなかった人もいますね。昔話に出てくる旅芸人の一座って、大体そんな感じ。
まあとにかく、たまたま私の生まれ育った現在の日本社会、ここ五十年ちょっとが奇跡的に恵まれた時代だっただけで、人類の歴史上、エンタメで生計を立てることはほぼ不可能なのです。
そりゃそうですよね。エンタメは空腹を満たしてくれないし、雨風を防ぐことも、敵から身を守ることもできない。そこにお金のやり取りが生まれるのは、平和と豊かさの上になりたつ話です。。
おそらく、この素晴らしい時代はピークを過ぎました。
コロナさんは大きな爪痕を残しました。戦火は世界中で広がるばかりです。物価が下がる見込みはありません。インターネットやAIなどの技術革新は、「創作者にとって便利なツール」の範疇を超えてきています。
一年後か十年後か分かりませんが、もうしばらくしたら、「普通」の人がエンタメで生計を立てられる時代は終わるでしょう。
すぐにゼロにはならないだろうし、中世のような状態そのままに戻るとも思えない。ただ、業界自体が縮小していくのは確実だと考えます。
仮に、2000年には音楽専業で食えていた人が2000人いたとしたら、2030年には1000人か500人か30人か、ぐっと減ってしまうでしょう。
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激化していくパイの奪い合い、変化していく時代の中で生き残れるのは、やはり若い人だと思います。時代は若い人が作るものです。
きっともうすぐ明治維新のような、壇ノ浦の戦いのような「何か」が起きて、パラダイムシフトが起きるでしょう。
その「先」を見据えて、「今」にはありえないような何かを生み出せる人間が、新たな時代を引っ張っていくのだろうと思います。
まとめ
いろいろと書いてきましたが、「現時点で23歳以上の人は夢を諦めろ」と言いたいわけではありません。どうせ世界が滅ぶなら、最後まで信じたいものを信じているほうが幸せだとも思うし。
ただ実際のところ、今、20代半ば~30代の人がオーディションに応募したり、スカウトを受けたりすると、詐欺に遭う確率が非常に高くなっていることだけは心にとめておいてください。
詐欺師は、あなたの夢や「好き」を利用してきます。
たとえば「うちの事務所で頑張ればデビューできますよ」と言われて所属してみたら、実態はほぼ養成所で、給料をくれるどころか、所属費用をとられるケース。ひどい話です。
たとえば「君なら売れる」と言って仕事をくれたけど、現場に行ってみたら、彼らが本当に売り出したいと考えている若い子の当て馬として使われるケース。最近オーディションに多いですね。売り出したい子を優勝させるために、適当な敗北者を用意する感じ。時間と心を無駄にさせられます。
あなたの夢や「好き」を、こんなやつらに消費させられてはいけません。
どうか、こういう輩には引っかからないでください。
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「じゃあどうすればいいの?」と聞かれても、分かりません。
とりあえずちゃんと生活を安定させて、しっかり仕事して美味しいもの食べて、家族や友人や恋人を大事にして、充実した人生を送ってください。そのうえで夢や「好き」を追求していきましょう。
時代がどう変わろうとも、たとえ世界が終ろうとも、ひとの夢や「好き」自体に変化も終わりもありません。
信頼できる師匠についていくとか、仲間と手を取り合うとか、自分が信じるものを極めるとか、ファンや信者を増やすとか。とにかく「自分だけの何か」を身に着けていれば、希望は残ると思います。
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今回の記事は、前の連載で定義したLv.2の人をメインターゲットにしています。しかし、他のレベルの人には関係ない、とは言えません。
前述のとおり、アーティスト活動専業で生計を立てられる人数は減っていくばかりだと予想されます。今、アーティストとして食べていけている人も、いつまでその状況を維持できるか不明です。
これからは、どんなアーティストも、他の仕事で生計を立てつつ、副業または趣味として活動を継続することが主流になると思います。
昨年出版した拙著『夢や「好き」と、ともに生きる』でも書いていますが、アーティスト活動と社会人としての経済活動は両立できます。しっかり自分と向き合い、どんな人生を送りたいか考え、諦めずに生きていきましょう。
https://note.com/reasnot/n/n7146f57a57d0
REASNOTは、あなたがあなたらしく、あなただけの夢や「好き」とともに生きていけることを願っています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
おまけ
ここからはFan Club会員の方向けに、ちょっとした小噺を。