都内を中心にフリーカメラマンとして活動している、浅香郁絵(あさかいくえ)。彼女が制作してきた写真集や、仕事をするうえでこだわっていること、音楽への思いなどを聞いた。
代表作ともいえる写真集と、撮影へのこだわり
浅香は、これまでに5冊の写真集を制作してきた。とりわけ思い入れのある作品が、20年春に発表した『Beautiful』だ。
白を基調とした背景に映える一輪のバラや、器に飾られた桜の花びらなど、静寂のなかにも美しさを感じる写真の数々が収録されている。
「最初の緊急事態宣言で、撮影の仕事が全部なくなってしまったとき、『お花なら家でも撮れる』と思ったんです」。
基本的に静物の撮影は得意ではないが、花だけは別だ。
「お花ってすごく華やかで、見ていると元気になりますよね。コロナ禍で外に出られなくて、仕事がなくて、暗いニュースばっかりで、不安定で。そんな人の心に寄り添える作品にしたいなと考えて制作しました」。
彼女の写真集は、主催イベントやインターネット販売にて購入できる。
ところで、撮影には、どんな機材を使用しているのだろうか。
「カメラのボディはニコン、レンズはシグマです。試しに買ってみたら、相性がよくて。特にレンズは、使うものによって色が違うんです。私は、この色が気に入っています」。
もっとも、機材には、あまりこだわっていない。
「自分の撮りたいものが撮れれば、それで充分です」。
撮影や編集の技術は、ほぼ独学で磨いてきた。
「一眼レフを買ってすぐのころ、渋谷にある写真の学校・東京写真学園へ半年ほど通いました。あとは実際に活動しながら、試行錯誤しています」。
編集にはAdobe PhotoshopやLightroomを使用している。
「『スタジオで撮った写真に虹色のスモークをかけてほしい』とか、無茶ぶりも多いです。でも、難しい依頼をこなすことでスキルアップできるので、感謝しています。過度な加工はしませんが、ある程度は、技術が必要だと思うので」。
最近、『自分の色味』が安定してきたと語る。
「自然光を活かした、爽やかな緑を出すことが得意です。公園などでのロケーション撮影では特に、強みを発揮できます」。

スマートフォンが普及し、誰でも簡単に、それなりに綺麗な写真を撮ることができるようになった現代。それでも、『カメラマン』の価値は変わらないと考えている。
「スマホはすごいです。中途半端に一眼を買って、慣れないまま撮るより、スマホの方が良い写真を撮れたりします。でもカメラマンには、『こういう角度だと綺麗に撮れる』って知識や技術、経験、撮影対象の表情を引き出すためのコミュニケーション能力などがあります。それらは一朝一夕に得られないものだから、需要は残るんじゃないかな」。
やはり、特別な一瞬を美しく残したいときは、カメラマンに撮影をお願いしたいものだ。
好きな音楽と、ライブ撮影への想い
ライブ撮影を主な仕事にしている浅香。彼女が音楽を好きになったきっかけは、BUMP OF CHICKENだ。
「中学生のころにバンプを聴いて、世界が変わりました。それからELLEGARDEN、マキシマムザホルモンを通って、メロコアやハードコア、パンクにはまりました」。
学生時代は、川崎のCLUB CITTA’や、渋谷のTSUTAYA O-WESTなどのライブハウスに足しげく通ったという。
「社会人になってからは、もっと幅広いジャンルの曲を聴くようになりましたね。ポップ・ロックンロール・シューゲイザーとか。どの音楽も素晴らしいです」。
カメラマンの視点から、アーティストに対して思うところを訊いてみた。
「売れるか売れないかって、タイミングの問題が大きいと思います。ライブをしているバンドはみんな、当たり前のようにカッコいい。ぜひ写真を残してほしいですね」。
音楽だけでなく、ビジュアルも重要な要素だと語る。
「音楽とファッションには共通するものがたくさんあります。そこを大切にしてるバンドの方が、私は好きです。写真でも映えるし」。

彼女が理想とするライブ写真は、『シンプル』だ。
「ライブ写真って、編集ありきな部分があります。会場が暗いことも多いし。でも、加工しすぎるのは嫌なんですよね。そのときのバンドの色と空気を、そのまま伝えたいです」。
また、ライブハウスにおける主役は、観客と演者だと考えている。
「いくらカッコよく撮りたいから、迫力のある写真が欲しいからって、でしゃばるのはよくありません。黒子に徹して、邪魔にならないように、できるだけ少ない動きで撮る。撮りづらい環境でも、確実に押さえられるカメラマンを目指しています」。
ライブ写真では、会場後方から全体を写す構図が気に入っている。
「人がいっぱいいて、盛り上がっている瞬間、私も感動しています。その一体感を、より多くの人に見てもらいたいですね」。
アーティストにとって、ライブをするたびにカメラマンを呼ぶのは、少しハードルが高いかもしれない。資金面の問題もあるだろう。しかし、それだけの価値は必ずある、と思わせられる取材だった。
text:Momiji photo:TAMA