【R37:STORY】マーブリングアーティスト・らっくあまるも

2017年にイタリアのフィレンツェへ単身移住し、マーブリングの技法を習得した、らっくあまるも。現在は東京を拠点にアートプロダクトを制作し、様々な企業とのコラボレーションやワークショップへの出演、催事への出展など、幅広い活動を行っている。彼女のアーティスト活動の原点と、今後の展望とは。

イタリアの陽射しに魅せられて

大阪府出身のらっくあまるもが、マーブリングアートに興味をもったきっかけは、大学の卒業旅行だった。

「学生時代はソフトテニス部に所属して、よく日焼けしてました。あとは普通に勉強していましたね。卒業旅行では、友達と一緒にヨーロッパを周遊しました。とても楽しい旅で、特にフィレンツェは『この街、すごく好きだな』と心に残りました」

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いつかまた、フィレンツェに行きたい。そんな思いを胸に、新卒として就職した会社でお金を貯めた。夢を実現させたのは、2017年のことだ。

「渡航の準備を進めるうちに、せっかくなら現地で何かを学びたいという思いが芽生えました。フィレンツェは手工業が盛んな街で、銀細工や革細工などが有名です。何を学ぶべきか考えるうちに、マーブリングアートに辿り着きました」

マーブリングは、水面に絵具を落として模様を描き、紙に写しとる技法だ。その歴史については諸説あるが、中国で発明された後、中央アジアを経由してトルコへ、さらにヨーロッパへ伝わったと言われている。地中海を渡って、ルネサンス時代のフィレンツェに辿り着き、現代にいたるまで職人によって受け継がれてきた。

らっくあまるもは、小学生のころ、マーブリングアートに触れたことがあった。

「私の母はモノづくりが好きで、よく手芸をしたり、ドールハウスを作ったりしていました。マーブリングも、一緒にやった記憶があるんです」

縁を感じた彼女は、マーブリングの工房へ通うことを決め、様々な技法を学んだ。

また、フィレンツェの美しい景色や、燦々と降り注ぐ陽射しは、彼女の感性を育んだ。

「日本とイタリアの環境の違いもあると思うんですけど、太陽の光の強さ自体が違うというか、全てがキラキラして見えたんです。あの景色と輝きは、今も私の中にあります」

18年に帰国後、現地で学んだマーブリング技法を生かして、アートプロダクトの制作を開始。完成した作品は、大阪・京都・神戸の三か所で委託販売を行った。

「アクセサリーなどの小物から、少しずつ作り始めました」

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アーティストとして活動を開始するにあたって使い始めた「らっくあまるも(L’aquamarmo)」という名前は、イタリアの言葉に由来している。

「イタリア語で『水』という意味の『L’acqua』と、『マーブル』という意味の『marmo』を組み合わせて、もじった名前です」

様々な企業とのコラボレーションを通じて、活動の幅を広げる

マーブリングアーティストとして活動を本格化させたのは、2019年の夏ごろだ。

「東京の台東区さんがモノ作りに力を入れていて、クリエイター起業者向けの創業支援を行っていることを知って、上京に興味を持ちました」

拠点を東京都に移した後、20年2月と9月に原宿のギャラリーで作品を展示。11月には、流山おおたかの森高島屋S.Cにて、『グラフィックアワード2020』のマーブリング講師を務めた。

「約30分の体験講座を、1回あたり12名のお客様に対して、全7回開催しました。どんな道具を準備すればいいのかも分からない状態から始めましたが、スタッフの皆さんのサポートもあり、盛況のうちに終えることができました」

12月には、日本郵便の年賀状促進企画『ふみの日2020』にて、オンラインワークショップ動画に出演。『マーブリングワークショップ上級編 マーブリングでつくる 不思議な模様の年賀状』の講師を務めた。

「コロナ禍の最中でもあり、『家で楽しめるイベントを行いたい』ということでお声がけいただきました。マーブリングに必要な道具を、どうやってご家庭にあるもので代用していただくか、頭を悩ませましたね。洗濯のりなどが有名ですが、今一つ、仕上がりが安定しなかったんです。試行錯誤の結果、片栗粉を使う方法を見つけました」

さらに「撮影自体も刺激的でした」と振り返る。

「たくさんのスタッフさんと機材に囲まれての撮影で、『普通に生活していたら見られない景色だな。マーブリングのお仕事を通じて、こういう景色をもっと見ていきたいな』と思いました。高島屋さんでの講師経験とともに、今の私の原点になったと言えるお仕事の一つです」

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21年春には『Sake & Art Candle Collection 2021 Spring -Bloom』に参加。オリジナルラベルコレクションを発表する”日本酒のファッションショー”にて、マーブリングを使用したラベルを発表した。

同年6月には、ケーブルテレビ等で放映されている音楽番組・MUSIC ON! TV『M-ON! SPECIAL 「小林愛香」 ~Gradation Collection~』に、マーブリング講師として出演。

「『ラブライブ!サンシャイン!!』の津島善子役などで知られる小林さんと一緒に、マーブリングをして、指輪に加工するところまでを収録しました。とても楽しい撮影でした」

21年後半以降も、様々なイベントや企業で、マーブリングワークショップ講師を担当した。とりわけ印象に残っているのが、22年10月と23年2月に参加した、静岡県障害者芸術祭だ。安全面や感じ方(視覚)を慎重に検討しつつ、『ボーダレスなアート』としてのマーブリングの可能性を探求した。

「マーブリングは、個人の能力にあまり依存しないアートです。筆を持てなかったり、色覚障害があったりしても楽しんでいただけるように工夫しています。作る過程に意図したものと出来上がったものが全く違う風合いになって、偶然できた模様も素敵です。障害者の方々や、彼らをサポートされている方々とのアート体験は、私自身、大変勉強になりました」

22年7月には、ジョンソン株式会社の『スクラビングバブル トイレスタンプ』のWEB広告ムービーの撮影に協力した。

「ジョンソンさんから『マーブリングを使用して、トイレスタンプの効果を検証したい』とご依頼をいただきました。マーブリングの制作過程や、水面の模様の面白さを評価してくださったんです。私も『こういう魅力の引き出し方があるんだ』と、楽しんで撮影に臨むことができました」

完成した広告ムービーは、各方面で好評を博した(※編集部注:現在は公開期間終了)。

「以前から、自分で動画を作って、Instagramのリールに投稿していました。このお仕事をきっかけに、もっと『マーブリング×映像』の可能性を広げていきたい、という思いが強まりました」

23年8月には、新洋電気とコラボレーションした照明『Marmo』を発売。

「個人的に、照明とマーブリングって、すごく相性がいいと思っています。光を通すことで、より模様が映えるんですよね」

23年6月には株式会社Craftieの『Craftie Home Box』、24年6月には株式会社フェリシモの『ミニツク』にて、マーブリングアートのキットを監修した。

「私が普段、自分の作品を制作する際は、ヨーロッパから材料を仕入れています。それをそのままキットに入れるのはコスト的に難しいので、企業の担当者様と相談しながら、レシピを作成させていただきました」

 

23年11月には『デザフェス58』、24年5月には『デザフェス59』へ出展。

「これまでは委託販売だけだったので、自分で接客して販売するのは、デザフェス58が初めてでした。コロナ禍も明けてきたことですし、個人のお客様との繋がりも作っていけたらいいなと思います」

24年2月と7月には、阪急うめだ本店での催事に出展している。

「百貨店売り場のプロの方にアドバイスをいただきながら、商品を並べて、マーブリングのデモンストレーションも行いました。より多くの方にマーブリングアートの魅力をお伝えできるよう、今後も努力していきたいです」

もっと美しい景色を見るために

様々なイベントでワークショップ講師を務めたり、企業とのコラボレーションを行ったりするなかで、活動の幅を広げてきた、らっくあまるも。「これからやってみたいことはありますか?」と尋ねてみた。

「新しいプロダクトの素材を開拓したいですね。今、私が染めている素材は、紙だけです。紙は汎用性が高くて、加工もしやすいのですが、他にもマーブリングに適した素材があるんじゃないかと思います。布とか、木とか、色々と試していきたいです」

彼女の行動原理には「マーブリングの可能性を探求したい」という想いがある。

「活動拠点を東京に移したのも、企業さんとのお仕事を積極的に行ってきたのも、同じ理由です。これからも多くの人と関わって、様々な分野のプロとともに『マーブリングってこんなこともできたんだ』と、可能性を伸ばしていきたいと思っています」

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らっくあまるものアート活動のテーマは「美しい景色を見ること、魅せること」だ。

「純粋にマーブリングの美しさを追求することはもちろん、お仕事を通じて、普通に生きていたら出会えない人や物を知ったり、体験ができたりすることを楽しんでいます。時間ができたらイタリアなどに出かけて、美しい景色を補給しています。それらをアートにして、みなさんにお見せして、魅了できればと思っています」

5年後、10年後の展望はあるのだろうか。

「自分が面白いと思える活動を継続しつつ、イタリアとの繋がりが感じられる仕事を増やしていけたら、嬉しいですね」

彼女はこれからどんな美を集め、育てて、私たちに届けてくれるのか、期待したい。

文:紅葉

 

INFORMATION

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◎らっくあまるも公式サイト

https://marblingartist.com/