【R39:STORY】千葉県発、日本語ロックバンド・SLINGRIM

Vo./Gt.梅田風四郎(うめだ・ふうしろう)、Ba./Cho.相沢賢(あいざわ・けん)によるロックバンド、SLINGRIM(スリングリム)。音楽に興味を持ちつつもプレイヤーとしての経験はなかった梅田は、大学で相沢と知り合い、4年生の時にバンドを結成。コロナ禍やメンバーの脱退、バンドの改名などを乗り越え、さらなる飛躍を誓う彼らの現在地とは。

流されるままの人生が嫌になった

群馬県出身の梅田は、特に音楽が好きな子どもというわけではなかった。

「たまにテレビから流れてくるJ-POPを聞くぐらいでした。自分が歌っているところを人に見られるのは恥ずかしかったので、合唱の授業も、カラオケも嫌いでした」

バンドに興味を持ったのは、中学生のころだった。

「初めて自分のiPodを買ってもらった時、7歳上の兄が『俺の持っている曲を入れてやるよ』と言って来たんです。いきなり何百曲も、知らない曲ばっかりでした。それを適当に聴いていたら、良いなって思う曲が幾つかあって。テレビとかには出演していない、いわゆるアングラのバンドの存在を知って『かっこいいな』と思ったところがスタートでした」

 

その後、様々な音楽を聴くようになり、ELLEGARDENをはじめとしたロックバンドの世界に魅了された。各地のライブハウスやフェスにも足を運ぶようになった。

しかし当時の梅田には「自分もバンドをやろう」という発想はなく、人生についても深く考えていなかった。

「中学のころはサッカー部に所属していました。もういいかなと思ったので、高校は帰宅部。『とりあえず大学は行っとこう』ぐらいの感じで進学して、東京で一人暮らしを始めました」

大学1年生の春、のちにバンドメンバーとなる相沢と知り合った。

「うちの大学には、学籍番号で振り分けられる、ホームルームみたいなクラスがありました。一人の教員に対して学生が30人くらいいて、僕たちはクラスメイトだったんです」

最初から仲が良かったわけではなかった。

「相沢とは専攻が違ったこともあって、たまに会うくらいの関係でした。でも2年生になって、なんとなくギターを買いたくなった時、『ついてきてほしい』と頼みました。僕は楽器のことが全然わからないし、一人で楽器屋へ行くのも怖かったので。彼以外に、音楽をやっている知り合いがいなかったんです」

思い付きでエレキギターを購入した梅田は、インターネットでコード譜を調べて、好きな曲をコピーするようになった。

バンドを組みたいと考えたのは、大学4年生の時だ。

「就活が始まって、周りはどんどん就職先を決めていくなかで、自分はあんまりやる気が出なかったんですけど。そんな時にたまたまMOROHAのライブを観に行ったらめちゃくちゃ刺さっちゃって。『このまま適当な感じで就職して、本当にやりたいこともできずに進んで行くのは嫌だ。自分が一番好きなこと、やりたいことに素直になろう』と思い立って、その日、家に帰って曲を作り始めました」

意を決した梅田は、早速、最も身近な音楽仲間である相沢に声をかけた。

音楽は趣味でいいと思っていた

東京都出身の相沢は、5歳のころからクラシックピアノを習っていた。

「先にピアノを習っていた姉の演奏を聴いて、『僕の方が上手く弾けるな』と思ったのがきっかけです。対抗心ですね。大学に入るまで、十年ちょっと続けました」

とはいえクラシック音楽にも、ピアノにも、面白さは感じていなかった。

「同じフレーズを何回も繰り返すうちに、自分がどこを弾いているのか分からなくなったり、眠くなったりすることが多かったんです。難しい曲が弾けるようになったら嬉しくはあるけど、『やったー』って達成感を得られるほどじゃない。だらだらと、週1の習い事として通っているだけでした」

小学校のころはミニバスケットボール、中学校では卓球部で活動するなど、体を動かすことも好きだった。

そんな彼が、心を震わせる音楽に出会ったのは、中学生のころだった。

「ちょうどDTM系が盛んな時期に、初音ミクを知ったんです。世界中にいる、色んなバックボーンを持つ人が、自ら作った曲を投稿しているというのは、衝撃でした」

ボーカロイド文化の深さと広さに、感銘を受けた。

「これだけ多くの人がいれば、自分と似たような境遇や感性の人が絶対いる。どんな人でも『刺さる楽曲がない』ってことはない。凄いですよね。新しい曲に出会うのが楽しくて、めっちゃディグってました。特にWOWAKAさんの作る音楽が好きでした」

さらに『弾いてみた』動画に影響を受け、好きな楽曲をピアノでコピーしたり、自分でアレンジしたりし始めた。

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高校生になると、軽音楽部に入った。

「友達から『ピアノ弾けるんだったら軽音に入ろうぜ』って誘われたんです。バンドを組んで、僕はキーボードボーカルを担当しました。ボカロの曲をやりまくりましたね」

作曲に取り組み始めるとともに、ギターを弾くようになった。

「クラシック育ちのせいか、ピアノだと、お利口な曲しか作れなかったので、もっと自由に、自分が普段聴いているような曲を作りたくて、ギターを持ちました。ギターの方が、ニュアンスも伝わりやすいので」

高校3年生の時には、全国の高校生が参加するバンドコンテストに出場した。

「それなりに上まで行けちゃって、一瞬、『このままバンドをやって生きていこうかな』と思いました。でも1位とか2位とか、入賞してる人達は、全然レベルが違いました。とんでもなく上手いし、とんでもなく曲もいいし、音楽の知識もあるし。『僕がバンドやってプロになっても勝てねえな』と痛感しました」

音楽で上を目指すことの難しさが身に染みたが、満足感もあった。

「バンドのことを何も知らないところから三年間やって、ここまで来れたら、十分かなと。これ以上深追いする必要はないかな、と思って、一度音楽から離れました」

高校卒業後は都内の大学に進んだ。たまにピアノやギターを弾くことはあったが、かつてほどの情熱はなかった。

「もう、音楽は趣味で良いかなと。もし何かやりたくなったら、ボカロPとしてインターネットに楽曲を投稿すれば、自分の欲求や衝動は満たされる気がしました。せっかく大学で映像や音楽を学んだし、それらの知識を生かせる仕事につきたいなと思って、就活していました」

そんな時、梅田から声をかけられた。

「たしか『バンドやらん?』みたいな感じでした。僕は最初『趣味として、時間があいたタイミングでライブしよう』って誘いだと思ってて。正規メンバーではあるけれど『梅田がやりたいことを手伝ってあげる』くらいの気持ちで、普通に新卒として就職しつつ、参加しました。だんだんとバンドが面白くなってきて、今は転職していますが」

ゼロから全国を目指して

大学4年生の終わりごろからバンド活動を開始した彼らは、メンバーを集め、オリジナル曲を作り、ライブハウスへの出演を重ねた。梅田は、遠い目をして振り返る。

「僕は本当に、音楽の知識も技術も経験もないところからのスタートで、めちゃくちゃ下手くそだった上に、それを自覚するのにさえ時間がかかりました。ただ勢いで、バンドをやりたくてやったから、できたんですよね。もし客観的に自分を見れてたら、きっと心折れてたんじゃないかな。今思うと、あまりにも下手なので」

相沢は、その奮闘を見守っていた。

「彼が『曲を作りたいけど、作り方が分からない』と言い出した時は、横で見ていてもどかしかったですね。あんまり口を出しすぎると、僕の曲になっちゃうので、とにかく『いいんじゃない』って褒めていました。一つずつ形にしていかないと『曲作りってよく分かんねー』って状態のまま終わったら、もったいないと思って」

バンドを始めて1、2年経ったころ、状況が変わってきた。

「梅田が『コード進行が分かってきた』と言って、めっちゃ良い曲を作ってくるようになったんです。『始まったな』と思いました。そのうちの一曲が『朝陽』です」

しかし2020年、コロナ禍が世界を襲った。

「思うようにライブが出来なくなり、他にも色々な原因が重なって、メンバーが二人、脱退してしまいました。まあ仕方のない話なので、バンド名を変えて心機一転することにしました」

こうして20年9月、SLINGRIMが結成された。

「バンド名は音の響き重視で、英語のSLINGとRIMをくっつけました。ロゴは知り合いのデザイナーに頼んで、楽曲とかバンドのイメージから作ってもらいました」

結成を機に、相沢はキーボードからベースへ持ち替えた。

「前のバンドからベースとリードギターが抜けて、残ったのがドラムとギターとキーボードだったんです。『ギターはそれなりに弾いてきたし、ベースもいけるやろ』と思いましたが、なめてましたね。今もあまり上手くはないですが、頑張っています」

コロナ禍にともなう自粛要請の緩和に合わせて、月2~3本ほどのペースでライブへ出演。千葉県佐倉市のライブハウス・Sound Stream sakuraを拠点に、東京や神奈川にも足を延ばしていった。

21年には、初めての本格的なレコーディングに挑戦。名刺代わりとなる1st E.P.『SLINGRIM』を制作し、12月12日に発売した。同日、メロディア東京にて主催したレコ発企画『FRAME OUT』は好評を博した。

「前のバンドの時から、CDを作ったり、主催ライブを企画したりしたいと思っていたんです。遂に実現できて、嬉しかったですね」

翌年はメンバーの脱退などがあったものの、23年1月4日に、7曲入りの1st ALBUM.『Demo Tape1』を発売。それぞれの技術を生かしたセルフレコーディングを行い、収録楽曲の中から『GetBack』を、10月11日にYouTubeにて公開した。さらに12日、『飛行船』のMusic Videoを公開し、26日に各種サブスクリプションサービスにて配信リリース。反響を呼んだ。

24年8月17日には、2nd E.P.『Dear Lonely Strangers』を配信開始。さらに10月19日、Sound Stream sakuraでリリースイベントを開催した。

「2nd E.P.には、今の自分たちの代表曲を収録しました。『遠吠え』はYouTubeにMVも出しています。スルメソングだと思うので、何回も聴いてほしいです」

 

25年夏には、Sound Stream sakuraとの共催企画が決まっている。

「まだSakuraに出たことのないバンドを、僕らのホームに連れて行きたいという思いがあって、今回の企画を組みました。6月6日は、僕らを含めて4組が出演します。8月のイベントと合わせて、成功させたいです」

5年後、10年後の目標はありますか?と尋ねると、梅田は首を傾げた。

「僕は、あまり先のことを考えて生きてないんです。ようやく今やりたいこと、できることがなんとなく分かるようになってきたので、それらをちゃんと行動に移して、次に繋げていけたらいいですね」

相沢も頷く。

「未来のことを考えすぎちゃうと、今の自分が取りたい選択肢を選べなくなることがあります。個人的には『こうなりたいから、今はこうしない』っていうのは違うな、と感じます」

そんな彼らの夢の一つは、47都道府県ツアーだ。

「バンドを始めたころから、いつかやりたいと思ってます。楽しそうじゃないですか。沖縄とか北海道とか、そもそも行ったことないですし。自分の出身地の群馬にも、ライブしに行ってみたいです」

梅田が凱旋に想いをはせると、相沢は「ツアーをやって、来てくれたお客さんたちと盛り上がって、何かを残せるバンドになれたらいいですね。地方とのコネクションを作るところから頑張ります」と語った。

動画投稿やライブ配信など、音楽活動の方法は多様化しているが、彼らは「ライブハウスに軸足を置きたい」と語気を強める。

「やっぱり、生で演奏を聴いてもらいたいです。最近は、今までより楽しくライブをやれているし、お客さんも楽しそうにしてくれてます。ぜひ、ライブハウスに見に来てほしいです」

憧れの会場はありますか?と聞いてみた。

「新木場にあったSTUDIO COASTが好きでした。もうなくなっちゃったけど」

梅田が難しい顔をする一方で、相沢は笑っていた。

「僕はボカロ出身だから、ライブハウスには詳しくないんです。幕張メッセでやれたら熱いな、とか思うけど、あまりに遠すぎる場所ですね」

ゼロに等しいところから始まった彼らの夢が、一体どこへ辿り着くのか、楽しみだ。

文:紅葉 写真:あずき

 

INFORMATION

CD 【R39:STORY】千葉県発、日本語ロックバンド・SLINGRIM

2nd E.P.『Dear Lonely Strangers』
現在のSLINGRIMの代表的な楽曲群を詰め込んだ一枚。24年10月19日発売。3曲入り、1,000円。
【配信】https://linkcloud.mu/ea3e2e75

Goods 【R39:STORY】千葉県発、日本語ロックバンド・SLINGRIM

ラバーストラップ
ライブ会場他で販売中。800円。

 

Live1 【R39:STORY】千葉県発、日本語ロックバンド・SLINGRIM

 

2025.6.6(金)  open 18:30 / start 19:00
Sound Stream sakura 25th ANNIV. “go far, go together”
SLINGRIM×Sound Stream sakura pre.
『 Alternative Blossoms』vol.2

[会場] Sound Stream sakura(千葉県佐倉市上志津1785-3 2F
[料金] 来場 ¥2,500 (+1drink) / 配信 ¥2,500
[出演] SLINGRIM,ジョン,GOENDz,LUCKCAME

Live2-724x1024 【R39:STORY】千葉県発、日本語ロックバンド・SLINGRIM

 

2025.8.1(金)  open 18:00 / start 18:30
SLINGRIM pre. 3MEN LIVE『 Alternative Bloomers』

[会場] Sound Stream sakura(千葉県佐倉市上志津1785-3 2F
[料金] 来場 ¥2,500 (+1drink) / 配信 ¥2,500
[出演] SLINGRIM,KYRIELOID,イチバンボシ

◎SLINGRIM公式サイト

https://lit.link/slingrim