ギター弾き語りのシンガーソングライターとして、10年以上のキャリアを積んできた尾上。彼の演奏や楽曲作りへのこだわりを訊いた。
独学で身に着けた『ギター弾き語り』へのこだわり
尾上は体系的に音楽を学んだことがない。「上手い人って、本当にたくさんいるので。色んな演奏を見て、聴いて、良いと思った部分を真似しながら腕を磨いてきました」。あえて彼の音楽をカテゴライズするとしたら、フォークやポップスというジャンルに当てはまるだろう。
20年1月に予定されているワンマンライブでは、ピアノサポートを入れた演奏を披露する予定だ。普段、『ギター弾き語り』にこだわっている彼にとっては珍しい編成になる。
「元々、音楽を始めたきっかけはバンドでした。バンドサウンドを好きになったし、その真ん中で歌っている人に憧れました」と彼は語る。
「昔は、ギターが嫌いだったんです。歌うための手段として、仕方なく弾いていました」と遠い目をするが、音楽活動を始めてから心境が変化したという。
「尊敬できるアーティストをたくさん知って、『ギター一本で表現するってすごくかっこいいな』と。『僕もこういう風になりたい』と思うようになりました」。
彼のフットワークの軽さ、地方や飲食店でのライブの多さも、『ギター一本の弾き語り』だからこそ実現できているものだ。
「このスタイルでの楽曲を気に入ってもらえることが増えたので、そういう自分にこだわっていきたいです」。
現実も幻想も色褪せぬよう、今に繋ぎ止める音楽
オリジナル曲は100曲を超えるという尾上。代表曲であり、最も聴衆からの反響が大きい楽曲が『ポラリス』だ。
「北極星(ポラリス)の光を目指していけば、離れ離れになってもまた会えるというロマンチックな曲です。チルチルミチルの『青い鳥』をモチーフに作りました」。美しいメロディと、優しい歌声が胸に沁みる一曲だ。
これに限らず、尾上は先にテーマを決めて曲を作ることが多い。「かつての企画ライブで鍛えられたので、もう、どんなテーマでも作れますよ」。
これまでに制作したCDは3枚あり、いずれもライブ会場にて購入することができる。18年2月にリリースしたアルバム『東京ハレーションゴースト』は「島根出身の人間が東京で思ったこと」をテーマに制作した、ノスタルジーの詰まった一枚だ。
過ぎ去った青春を追懐しつつ、思い出を胸に未来へ歩もうとする現在を歌い上げる『チャイム』、「電車に乗って君へ会いに行く」というシンプルなメッセージで爽やかに突き抜けるアップテンポ・ナンバー『ブルートレイン』などが収録されている。「自分のレパートリーには、ゆったりした曲が多いです。それらを生かすためのアップテンポでもあります」。
「これまで、約2年おきにCDを出してきました。20年中には新しいアルバムを制作したいですね」と語る尾上。その軸に予定しているのが、栃木県足利市名草のほたる川の情景をもとに作った『蛍のうた』だ。
「月影に溶けてゆくように、はらり灯った蛍ともしび」。知る人ぞ知る蛍の群生地で見た、写真には写せない美しさを、彼ならではの表現で切り取った名曲である。
求められるがままに旅をし、出逢いや発見を糧に、また新たな歌を紡ぐ。19年7月のブログで、尾上自身が綴った言葉が、その音楽性をよく表している。「手に届かない空想と生活に根付くポピュラリティに溢れた音楽を」。
尾上の次の作品が楽しみだ。
Text:Momiji
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◎尾上明範公式ページ