アコースティックギターの弾き語りで活動しているシンガーソングライター、前田有加里(まえだ・ゆかり)。19年に東名阪ワンマンツアーを成功させ、20年11月23日には大宮ソニックシティでのバースデイワンマンライブを控える彼女が辿ってきた道のりと、今後の目標を訊いた。
『芸能界』への興味から、音楽の道へ
埼玉県に生まれた前田は、四人兄弟の末っ子としてのびのびと育った。現在、長兄は漫画家、次兄は塾講師、姉は美容師とバラエティ豊かな職に就いていることからも、前田家の自由な教育方針がうかがえる。
「『〇〇をしてはいけません』と言われる家風じゃなかったので、私が音楽をやりたいと言っても反対されませんでした。逆に、反対されてないからこそ辞めづらかったですね。『応援にこたえないと』っていう気持ちがあったから、今日まで活動を続けてこられたのかもしれません」と彼女は語る。
前田が「アーティストになりたい」と思ったきっかけは、小学校のころ、友人に誘われて応募したオーディションだった。
「元々音楽は好きだったんですけど、オーディションを通じて『こんな世界があるんだ』と知りました」。
芸能界に憧れを抱いた前田だが、そのことを人に言うのは恥ずかしかったという。「バレエを習っていたこともあり、『ダンスをやりたい』とは言いやすかったので、まずはそちらに取り組みました」。
幼少期にクラシックバレエやHIPHOPダンスを習ったことは、彼女にとって大きな財産となった。また、新聞で見かけたミュージカル『赤毛のアン』に祖母の勧めで応募し、出演したりもした。
歌を本格的に始めたのは高校生のころだ。まだ堂々と『歌手になりたい』とは言えずにいたが、ダンススクールに併設されていたボイストレーニングに通いだした。
前田に大きな一歩を踏み出させたのは、インターネットだった。
「ネットで、ギターの弾き語りをしている同い年の女の子を知って、路上ライブを観に行ったんです。そのうち仲良くなって、ギターを譲ってもらって、弾き語りを始めました」と、彼女は優しい目で振り返った。
元々、尾崎豊や秦基博など、ギター弾き語りの男性アーティストが好きだった前田。「アコギってかっこいいじゃないですか。1人でバンッ!と弾いて。バンドもやりたかったんですけど、そもそも『歌いたい』ってことを知り合いにも言えないし、メンバーを集められなくて」。彼女がギター弾き語りを始めたのは、当然の流れだった。
初めてライブをしたのは高校2年生の時。地元のライブハウスで、持ち時間は15分。カバー曲を3曲歌った。ライブハウスのシステムなどを良く分かっておらず、法外なノルマを課せられたりもしたが、今ではいい経験になっているという。
「初ライブ以降、オリジナル曲を作り始めました。昔から詞は書いていましたが、やっぱり『伝えたいことがあるなら、自分の曲を作らないといけないな』と思って」。
2年生から3年生にかけて曲作りに勤しみ、ライブへの出演を重ねた。周囲の友人が進学や就職の準備を進めるなか、音楽一本で生きて行こうと考え始める。「当時の先生には、『やめておけ』って強く言われましたけどね」。
ツイキャス配信の開始とバースデイワンマンライブ
高校を卒業した前田は、ブログを開設したり、路上ライブをしたり、自分なりに工夫しながら本格的な音楽活動をスタートした。しかし、なかなか集客は伸びなかった。
転機になったのは、ライブ配信サービス『TwitCasting(ツイットキャスティング)』の利用だった。
「『配信をやってみませんか?』って声かけてくれた方がいたんです。方向性の違いから、その方とのプロジェクトはすぐ辞退してしまったのですが、ネット配信は続けました。 当時はサービスを利用している人数が少なかったので、ランキングの上位に食い込みやすかったことがモチベーションになりました。1位は有名な芸能人で、2位が私だったりしたんですよ」。
毎日、ツイキャス配信をしていると、少しずつファンが増えていった。だが、前田は悩んでいた。
「大学へ行った友人たちが就活をする時期になって。『私は音楽で生きていく』って言ったけれど、ライブに人を集められるかすら分からない状態で。もちろん、みんなそれぞれに大変だろうけれど、就活をしている話を聞くと『ちゃんと未来に向けて進んでいる』感じがするじゃないですか」と前田は述懐する。

悩んだ末、2011年11月18日、22歳の誕生日を迎える5日前に、四谷天窓.confortにて初のワンマンライブを開催することを決めた。
「『アーティストとして生きていくにはこうすればいい』という方法論がないから、道なき道を行くしかない。立ち止まっていても何も変わらないから、とにかく頑張るしかないと思いました」。
ワンマンライブに向けて制作し、ライブのタイトルにもなった楽曲が『サイコロフィルム』だ。「サイコロって、全部の目の数を合計すると21になるんですよ。21年間の思いを込めて歌詞を書きました」。
当時はライブの本数が少なかったため、チケットの販売はインターネットが中心だった。「ものすごく不安でした。自分で会場を押さえるのは初めてで、赤字が出るのも怖いし、『配信で予約してくれたけど本当に来てくれるのかな?』って。ワンマンの後、ちょっとした10円ハゲができちゃったくらい、ストレスでした」。
不安は杞憂に終わった。当日は満員御礼。大成功を収めた。「自分が目標を立てて動いたら、頑張った分だけ周りの人も動いてくれるし、さらに頑張っていける力が湧いてくるって分かりました」。以降、前田は毎年、誕生日にワンマンライブを開催している。
15年に開催した5回目のバースデイワンマンライブも、彼女の人生において重要な節目となった。
「アルバイトをしながら音楽をやっている自分に疑問を持ったんです。父が病気になったこともあって、『こんな中途半端に続けていいのかな』と考えました。そこで『今年のバースデイワンマンに100人集められなかったら音楽活動を辞めます』と宣言しました」。
多くの人に心配されたり怒られたりしたが、努力の甲斐あって、ワンマンライブ当日には無事100名以上の集客を達成することができた。
「ただ音楽をやっているだけじゃ意味がない。ずっと続けていくんだったら、それで稼いでいかないといけない。楽しいだけじゃいけないな、と明確に意識が変わりました」。
ひとつずつ夢を叶えていきたい
楽曲はもちろん、グッズやチラシの制作に至るまで、すべてセルフプロデュースで活動している前田。約10年の活動のなかでは、良いことも悪いことも多く経験してきた。CD制作の業者に騙されるなどのトラブルもあったが、「音楽が好き」という気持ちを一番の原動力として乗り切った。
日産スタジアムのメインステージで歌ったり、フジテレビ系列のインターネットニュース番組『ホウドウキョク』や日本テレビ系列のバラエティ番組『マツコ会議』に出演したこともある。19年9月には、埼玉県を中心に全国へ展開する『おふろcafé』のアンバサダーに就任するなど、着実に知名度を上げてきている。
彼女の音楽活動において、インターネットは切っても切り離せない存在だ。
「最初にファンの皆さんがついてくださって、ワンマンをできるようになったこともだし。いろんな地域の方が見てくださるので、遠征ライブをやりやすくなりましたし」。
18年5月3日には、ネット配信スタートから2500日突破を記念して『前田有加里 2018ワンマンライブ〜積み木2747〜 at大宮ソニックシティ小ホール』を開催。アーティスト仲間やサポートメンバーに恵まれ、素晴らしいライブとなった。
しかし、満席に至らなかったことが、次の課題として残った。
「自分のベストを尽くしても届かなかったので、それまでに積み上げたものを一度崩して、ゼロから活動を見直しました。必ずリベンジしようと思って」。以来、ライブの本数を増やし、他のアーティストとの合同企画も多数行ってきた。
「継続的に100人以上の規模でライブをしていくには、アーティスト同士の繋がりを強めたり、ライブ会場でチケットを売ったりすることも大事だと考えるようになりました。やっぱり直接会う方が音楽も伝わるし、応援していただくきっかけになります」。遠征回数も増加させ、19年秋には初の東名阪ワンマンツアーを決行。全公演ソールドアウトの成功を収めた。
遡って16年末の前田のブログには、見果てぬ夢の数々が綴られている。
「1アーティストとしてはホールツアーがやりたい、武道館に立ちたい、色んなフェスに出たい、オリコン1位をとりたい、言い出したらキリがない!」
「(編集部注:CDの)リリースを一年に一度のペースというのを壊したい!!そのためには曲もたくさん作らなきゃだし、レコーディングのために歌もギターも上手くなりたい!」。
これらの目標は、今も彼女の胸にある。
「一つ一つ、できるところから実現させていきます。まず20年のバースデイワンマンライブを、もう一度、大宮ソニックシティで行うことを決めました。今度こそ満席にできるよう、10年間の活動の成果を出せるように頑張ります。絶対に後悔させないので、ぜひ見に来てください!」。
彼女の挑戦の行く末を見届けたい。
text:Tsubasa Suzuki,Momiji edit:Momiji
INFORMATION
2020.11.23(Mon) open 17:30 / start 18:00
10th Anniversary Birthday
MAEDAYUKARI ONE MAN LIVE
[会場] 大宮ソニックシティ 小ホール
(さいたま市大宮区桜木町1-7-5 2F)
[料金] 前売 ¥4,000 / 当日 ¥4,500
2020.2.13(Thu) open 18:30 / start 19:30
GRAPES KITASANDO 4th Anniversary
前田有加里presents ワンマンライブmaterial vol.10
〜今日が本当のバレンタインデー〜
[会場] GRAPES KITASANDO(渋谷区千駄ヶ谷4-3-11)
[料金] ¥3,000 +1D&1スナック ¥1,000/1D&ディナープレート ¥1,800