浜松を拠点に活動するピアノ弾き語りシンガーソングライター、藤田充(ふじた・みつる)。小学生のころから歌やピアノに親しみ、一度は声優の道を志したものの、地元へ戻って音楽活動を再開するに至った経緯と、今後の夢を聞いた。
声を出すことが好きだった
静岡県浜松市出身の藤田充は、歌うことが好きな子どもだった。両親が運転する車のカセットデッキにお気に入りのテープをかけて歌ったり、家にあるラジオカセットレコーダーで自分の歌声を録音したりしていたという。
「よく聴いていたのは槇原敬之、森山直太朗などですね。特に大黒摩季が好きで、お小遣いでCDを買っていました。彼女たちの音楽には影響を受けたかもしれません」。
小学校6年生になると、ピアノ教室へ通い始めた。「妹が先にピアノを習っていたんです。自分もやりたいなと思って、親に頼みました」。
さらに、中学校の担任の先生から薦められたことがきっかけで、浜松学芸高校電子音楽科へ進学。エレクトーンを専攻した。
「普通の学科の授業もありましたが、一週間の三分の一くらいは音楽の授業でした。演奏研究、合唱や合奏、音楽史や理論…。ドラムの打ち込みなども勉強しました」。
なかでも、DTMに強い関心を持った。「エレクトーンのオリジナル曲は幾つか作っていました。でも、本当は歌が作りたかったんです。自分でオリジナルの歌を作って、カラオケ音源も作れたらいいなと思って」。
目標を叶えるべく、卒業後は名古屋芸術大学音楽学部へ進んだ。
「『音大へ行った』と言うと、よく『どの楽器を専攻したんですか?』と訊かれますが、僕はDTMを中心に、レコーディングや作編曲を学びました」。
授業の一環として念願のオリジナル曲を制作してからは、その数を徐々に増やしていった。「今はほとんど歌わない曲ばかりですね。一曲だけ、たまに歌う機会がありますが」。
しかし、藤田の興味の対象は、歌に留まらなかった。
4年生になり、進路を考えるなかで、声優という仕事に惹かれた。
「結局、声を出すことが好きだったんですよね。歌も、声優も」。
卒業後は、声優の道を志して上京。フリーターとして働きながら養成所に通った。
「東京にいるあいだ、音楽はやりませんでした。けれど、大学までに身に着けたスキルは役立ちました。たとえば、養成所で知り合った友達とサークルを組んで、オリジナルのドラマCDを作ったことがあります。編集は僕が担当しました。みんなのセリフを切り貼りして、足音などの効果音をつけて、BGMを入れて…。とても楽しかったです」。
とはいえ、声優業界も狭き門である。養成所で3年ほど努力を重ねたものの、自ら見切りをつけて浜松へと戻った。
いつか、自分の城を持ちたい
地元で介護の職に就いた藤田は、仕事の合間に、ピアノを弾き語るようになった。「弾き語りは独学です。ピアノと歌と、それぞれ別に習っていたのを、自分なりに考えて…。手癖もいいところですが」と、彼は笑う。
「声優は作品ありきというか、チームがあってこそ活動できます。バンドやユニットも、方向性を揃えたり、スケジュールを調整したりと大変です。弾き語りは一人でやれるのがいいですね」。

最初の3年間は、ライブへの出演等はあまりせず、演奏の練習や制作活動に励んでいた。
「一部のライブハウスやバーなどの存在は知っていましたが、そこまで積極的に活動の幅を広げるという発想はなかったんです。考えが変わったのは、看護師の資格を取得するために、さらに三年ほど音楽を休んだ後でした。忙しさが落ち着いて、また音楽を始めようと思ったとき、初めて『そういう店へ行ってみようかな』と思いました」。
インターネット検索で地元のミュージックスポットを調べ、静岡県浜松市のLive cafe bar・なんでモールを知った。
「ご縁があって、2017年から定期的にワンマンライブをさせていただくようになりました。最初は隔月で、現在は毎月第二火曜日の夜に開催しています」。
以降、各地のオープンマイクやイベント、オーディションに多数参加している。「おかげさまで、色んな人と繋がりができて、声をかけてもらう機会が増えました」。
時には遠征し、東京のライブハウスや、愛知の栄ミナミ音楽祭などで歌うこともある。
「一時期は月10回ほどライブをしていました。今は月3-4回ほど、仕事とのバランスをとりながらやっています」。
18年12月には、1st Album『螺旋階段』を発売。作詞作曲はもちろん、編曲、録音、編集、ミックスに至るまで自ら手がけたこだわりの一枚だ。
今後は、SNSをはじめとしたインターネットの活用に力を入れたいと言う。
「ずっと一人での活動を極めてきましたが、これからは幅を広げていきたいですね。色んな人とコラボしたり、動画を作ってYouTubeに投稿したり」。
引き続き浜松を拠点にしつつ、まだ行ったことのない街でも歌いたいと考えている。
近年はロイヤリティフリー音楽販売サービス・AudioStockにてBGMやジングルを販売するなど、作曲家としても活動。声優養成所に通った経験を活かし、キャラクターボイスやナレーション等の仕事も請け負っている。

20年1月からは『Lifenuts』名義でオカリナ演奏者としての活動も開始した。
そんな藤田に5年後、10年後のビジョンを訊くと、「自分のスタジオが欲しいです」という答えが返ってきた。
「6帖とか、8帖とか、狭くてもいいんです。自分の歌やピアノの練習、作品制作に集中できる場所が欲しい。『録音したい』という人がいれば、エンジニアとして手伝うのもいいですね。動画の撮影に適した部屋も作りたいです」。彼は声を弾ませた。
「シンガーソングライターとしての活動を続けるだけでなく、レコーディングや編集のスキルも活かしたいんです。そのためのスタジオというか『自分の城』を持って、そこから作品を世界に発信していきたい。実現に向けて、計画を練ろうと思っています」。
歌、ピアノ、エレクトーン、DTM、声優、オカリナ…。様々なものに興味を持ち、常に自分らしくあろうとし続けてきた藤田が、どんな城を築き上げるのか楽しみである。
text:Momiji photo & hair-style:LuLux Hair Salon
INFORMATION
毎月第二火曜日 open 19:30 / start 20:00
「藤田充マンスリーワンマンライブ~envelope~」
[会場]Live cafe bar・なんでモール(静岡県浜松市中区上島5-22-26)
[料金]¥1,500(1drinkとお菓子付き)
[出演] 藤田充 ※90分間のワンマンライブとなります。
2018.12.18発売 1stアルバム『螺旋階段』(10曲入/¥2,000)
◎藤田充公式ページ
https://mitsuruvocal.jimdo.com